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災害と組織 | 災害の芽を摘む – saigai.me

 『段取り8分』など綿密な準備があれば作業は上手くいくといった格言的なこともありますが、計画が重要であるということは間違いないと思います。

 非常事態は『非常』であるがゆえに、平常業務としている人がほとんど居ません。消防など訓練を積み重ねていても本番は未経験という事も少なくありません。

 戦術を磨いても戦略が無ければ戦には勝てず、すなわち非常時対応に失敗する可能性があります。本番での戦略に資する計画(BCP)の策定は重要です。

 今日は、災害を含めた非常事態に立ち向かう組織について考えてみました。




目次

BCP
発災後も休めない
 ├ 行政
 ├ 消防・警察
 ├ エネルギーインフラ
 ├ 情報通信・報道
 ├ 医療・福祉
発災後に営業継続を努力
 ├ 交通機関
 ├ 金融機関
 ├ 小売業
発災後に操業停止を含められる
 ├ 製造業
 ├ 小売業
 ├ 教育
災害対応チーム
 ├組織分類
 ├ 災害対策本部
 ├ ロジスティクス班
 ├ 即席対応チーム
 ├災害ワーキングループ
チームマネジメント
 ├ “ONE TEAM”は一夜にしてならず
 ├ マネジャー
 ├災害対策本部機能・役割
 ├ 災害対策本部の立地
自主防災組織
 ├ 自主防災組織の目的・在り姿
 ├ 本部機能・役割
 ├ 構成員
 ├ 平時の活動
 ├ 発災後の仕事

戦略なくして、戦術なし



BCP

 BCPとは事業継続計画(business continuity plan)の略語であり、通称です。

 文字通り『事業』を『継続』するための『計画』ですが、計画の立て方には何通りかあります。

 非常事態に直面したら一旦休む場合と、非常事態でも業務を続ける場合に大別できます。




発災後も休めないエッセンシャルワーカー

行政

 行政では、市役所等の業務を継続するための内部的なBCPと、市民と共有する『地域防災計画』の2種類があります。

 地域防災計画はウェブサイトに公開している自治体がほとんどですので、簡単に閲覧できます。



消防・警察

 被災地域の消防や警察は発災直後から多忙になりますが、全国の消防・警察は被災地に向けて救援隊の派遣を検討します。

 1人でも多くの生命を救うための事業継続、社会を不安にしないための事業継続、国民の負託に応えるBCPが策定されています。


エネルギーインフラ

 電気・ガス・水道などのエネルギーインフラ事業者は発災直後から復旧作業に取り掛かります。

 電気とガスは民間事業、水道は公共事業である事が多く、資金や人員の配置に違いはあるものの、概ね同じ方向性のBCPを策定します。

 民業の場合、廃業に追い込まれないようにするための方策もBCPに盛り込まれます。


情報通信・報道

 NTT等の通信事業者、サーバやプロバイダなどの情報通信事業者などは発災後も切断しないように努める事と、1分でも早い復旧を目指すBCPを策定します。

 テレビや新聞等の報道事業者は正確な情報を伝えるという本業の事業継続のために、被災地の最前線への取材班配置などと並行して、全国の連携先の協力も得て報道を継続します。
 コミュニティラジオのような小さな放送局も災害時には重要な情報源であるため、発災後も業務を継続できるようBCPを策定します。


医療・福祉

 医療のBCPは独特です。

 操業停止を選択できない医療機関や高齢者施設が多いため、どのくらい細々とサービスを継続するのか、何を続けるべきであるのかを計画します。

 ときには、トリアージと呼ばれる診療の優先順位を決めるような重い判断も迫られるため、BCP策定にも重みがあります。

 患者らを救う事が目的の1つではありますが、廃業とならないような方策を練る事もBCPの目的の1つになります。




発災後に営業継続を努力

交通機関

 ひと昔前は運休しない事が目的化していましたが、近年は発災前の計画運休も定着し、影響を最小化するための計画が練られています。

 停電中は信号も点灯しないため車両を用いた交通は原則的に運休します。
 線路のゆがみなどが無い事を確認できなければ脱線の恐れがあるため、大地震の後に鉄道は点検期間が設けられます。

 東日本大震災では東北新幹線が1カ月以上運休、仙台空港は津波で大きなダメージを受けたが、山形空港を拠点に東京や大阪などの臨時便を飛ばして被災地とのロジを途切れさせなかった。

 公共交通機関には早期復旧と代替手段の2種類のBCP策定が求められます。


金融機関

金融機関は災害時でも営業する事が常識でした。銀行法の関係で営業する事は義務のようなものでした。
 近年は行員や利用客の安全を鑑みて臨時休業にする銀行が増えています。

 とはいえ、クレジットカードやキャッシュレス決済が停電や通信断絶により使えないとき、頼りになるのは現金です。
 金融機関は利用者の不利益を最小化しつつ、自身も守れる計画を策定します。


小売業(食料品・生活必需品等)

 阪神淡路大震災の直後にスーパーマーケット『ダイエー』が営業し、平時の価格で商品を提供した事は今でも災害時の神対応として取り上げられる話題です。

 近年の災害でも、地域密着のスーパーマーケットがカップ麺や水を平時の価格で販売するなど、食料品を中心に被災地の生活を支えるインフラとして機能しています。

 停電でレジが動かないときにそうするか、納入業者に連絡がつかない中でどう仕入れるか、発災後に考えても容易に対応できる話題ではないため、BCPの必要性が高まります。




発災後に操業停止を含められる(可能性がある)

製造業

 BCPはBはbusiness、事業継続計画ですので企業では廃業にならないための方策としてBCPを位置付ける事が多いです。

 工場でも商業施設でも発災当初は安全確保、装置の停止や避難を優先します。

 BCPはその判断に資する内容も盛り込まれる事があります。


小売業(緊急性の低い商品)

 大震災等では操業停止を選択する事ができます。無理に営業して被害を拡大するよりも、在庫を廃棄することになっても一旦は停止して復旧の礎を築く方が良い場合もあります。

 断水中のショッピングモールに100人出勤すれば、トイレは数百回使われ、余震があれば100人の安否確認も必要になります。こうした二次災害的な事も含め、どのような対応が最適であるかを計画します。


教育

 災害の混乱中にすべき教育とは何かを平時に検討し、BCPを策定します。

 教育にも学校や幼稚園、学習塾、英会話教室、カルチャースクールなど多種多様です。

 小中学校は徒歩圏にある事が多いですが、電車通学が必要な高校生くらいになると、そもそも登校する事の困難性が想定できます。また、教員の出勤にも配慮が必要です。




災害対応チーム

組織分類

 災害に関わる組織や団体はいくつかに分類できます。私見でいくつかの分類をしてみました。

 組織の目的を考えるといくつかの条件を選択できます。

  1. 災害のための組織
  2. 災害のためではない組織
  3. 災害対応が本業
  4. 災害時でも仕事を続ける
  5. 仕事を中断できる
  6. 法人格がある永続的な組織
  7. 法人格がない任意団体
  8. 一時的な存在

 災害でも業務停止できない組織として医療や介護などは典型ですが、災害に直面しても急には休業できず、細々であっても業務を続けなければならない組織があります。
 医療では、災害によって発生した急患も診るため平時よりも多忙になる上、リソースは不足するため、過酷な環境に置かれます。


 災害への対応が生業である消防や自衛隊は災害時に多忙になる、災害対応を生業としている組織です。

 自主防災組織は災害のためだけに組織されている任意団体です。


 多くの企業が災害時に一時的な操業停止を選択します。災害時でも営業を続けることが可能であっても、自社の業務よりも優先すべき社会的課題が存在すれば自粛することもあります。
 出勤者を減らすだけでも交通混乱を減らす効果が期待できます。


臨時の組織(災害対策本部)

 企業等の法人では、発災時の司令塔となる『災害対策本部』が組織されます。

 本部の開設が目的化してしまわないようにマネジメント(BCM)が重要になります。

 人手が足りず危機的な状況にある中で本部で頭脳を使う人よりも現場で手を動かす人の方が優先される場合があります。特に医療では人的リソースが救命できる人数に関係する場合があります。
 司令塔不在が新たな危機を招かないように、現場判断ができる人材育成が必要であり、情報発信や共有のツールも重要になります。やはりマネジメント(BCM)が状況を左右します。

関連記事 BCM訓練情報災害対策本部(本ページ内)


臨時の組織(ロジスティクス班)

 logisticsは兵站(へいたん)と呼ばれ軍事用語です。災害時に必要な食糧や物資の調達を担当します。備蓄や購入、運搬など一連の工程に責任を持ちます。

 『空腹は我慢できても、トイレは我慢できない』ため食糧よりも先にトイレを整備し、赤ちゃんは3時間毎にミルクが必要なため授乳や給湯の準備をする、といった先回りの環境整備がロジスティクス班には求められます。

関連記事 Logistics(兵站)


臨時の組織(即席対応チーム)

 災害時には居合わせた人々で協力して対応する即席のチームが形成されます。


災害ワーキンググループ

 職場で災害ワーキンググループ(WG)を形成する際、その位置づけが重要になります。

 災害WGは本業ではなく、それを支える、しかも非常事態にしか陽の目を見ないかもしれないWGです。しかしながら、有事に直面した際には災害WGが積み重ねてきた仕事が対応力に大きく影響します。

 急いで形式的な対応策を立てるよりも、有事に機能する組織づくりが求められます。

 組織の弱みがわかっていなければ対応策は練れないですし、課題が見つかれば補強策を考えなければなりません。そうしたことに長けたメンバーをアサインしなければ、形式的なWGになってしまいます。




チームマネジメント

 組織運営にはチームワーク、コミュニケーション、目標設定、成績評価などが求められます。

 マネジャー不在の組織は機能不全に陥る可能性があります。


“ONE TEAM”は一夜にしてならず

 2019年の流行語大賞”ONE TEAM”はラグビーW杯の日本代表のスローガンです。

 平時から共に働く職場であれば歩調合せはしやすいかもしれませんが、自主防災組織のように滅多に組まない相手との歩調合せは容易ではありません。


マネジャー

 非常時の組織をマネジメントする事は容易な事ではありません。現状も先も見えない中で関係者の士気を下げず、希望を持ち続けて危機を乗り越えられるマネジメントが求められます。

 自主防災組織や避難所などでは、平時は対等な関係である地域住民同士の中で適正なマネジメントをする必要があります。


災害対策本部機能・役割

 災害対策本部は災害が発生した後に設置されたときが本領発揮の場になります。

 本部に求められる最大の機能は『司令塔』や『戦略本部』と呼ばれるような機能です。

 組織全体が向かう方向を見失わないようにするのが本部の役割です。
 特に外部との連携や調整については、窓口の一本化が重要になります。


災害対策本部の立地

 本部をどこに置くべきかについては施設毎に検討が必要になりますが、本部機能が発揮できる事が最低要件になります。

 本部機能を発揮するためには情報収集や発信のための通信、施設内での連携や伝達、外部からの来訪者対応などが必要になります。

 見落とされがちな部分としては中央制御室などにある盤類の操作や館内放送設備が、災害対策本部から離れてしまっている点です。

 また、携帯電話のキャリアが全社網羅されておらず、回線が使用できるキャリアにつながらないという事もあります。

 どの位置が良いのか、どのような設備があるべきかについてはノウハウもございますのでコンサル会社等へご相談ください。

 建物の構造の都合などで本部の立地は変えられないという場合が多くありますが、それですべてNGになってしまう訳ではありません。

 求められる設備等が足りなければ、補えば済みます。

 ある施設様では無窓室に本部を配置、非常用の電源もありませんでしたが、いくつかの工夫と設備増強で補いました。




自主防災組織

自主防災組織の目的・在り姿

 自主防災組織とは『共助』(きょうじょ)の形です。

 行政が行う災害対応は『公助』(こうじょ)と呼ばれ、税金を使って大規模に実施されます。
 その一方で、対象が広いために公助が届くまでには時間がかかる場合があったり、均霑化を図る必要があるため局所的に特別な手当てはしづらい特徴があります。

 『自助』(じじょ)とは、各世帯が自身や家族のために実施する災害対応です。

 共助は、地域の町内会やマンションなどで形成される災害のための任意団体です。

 公助と自助の行き届かない部分を隣保協同や互助の精神の下で実施するのが共助ですので、地域が生き残る事が活動の原点になると考えられます。


本部機能・役割

 自主防災組織の本部機能は『情報管理』が主たるものになると考えられます。

 瓦礫に生き埋めになった人を助けるような救助活動は、素人にできる限界があり、二次災害も発生しやすいため、自主防災組織が担うべきかどうかはそれぞれの考え方によります。

 共助の仕組みであるため、地域のニーズに応える事が本来の役割であり、その声を拾い上げることも役割です。


構成員

 自主防災組織の構成員は、その目的や機能に合わせる必要があります。

 長老が仕切る町内会というイメージは取り払い、機動力や発信力など求められる要素をしっかりと押さえる必要があります。

 災害は予定通りには発生しないため、生産年齢が住まいから出掛けている時間帯と、土日や夜のように家族が揃っている時間帯では対応が異なるため、構成員は両方を見据える必要があります。

 地元に詳しく過去の災害を経験している高齢者が参画するのは必要な事ですが、機動力や体力のある20~50代あたりの参画も得られなければ必要な機能が蓄えられない可能性があります。

 構成員のスキルにも注目すべきです。
 なるべくバラエティの富んだ人員を揃えた方が対応力が高まりますので、老若男女を問わず、出身地や人種も問わず、例え学生であってもアサインするくらいの寛容さが必要です。


平時の活動

 危険箇所の把握や点検、行政への報告や相談などが平時の大きな活動の1つになります。

 訓練も重要ではありますが、訓練に参加できる人に偏りがあると、そのエキスパートが不在のときに対応力が著しく悪くなる可能性もありますので、訓練の方法や内容は熟考が必要です。

 訓練よりも優先されるのがシミュレーションだと考えられます。どこでどのような被害が発生するのか、誰に助けが必要で、誰が助けに行ってくれる人なのか、いくつものケースを想定して対応策を考えておくシミュレーションが、有効に働く可能性があります。
 シミュレーションの質を高めるためには、多種多様な意見を採り入れる必要があります。

 そのシミュレーションの方法などは、コンサルタントを入れて近道した方が、無駄が省けて良いと思います。


発災後の仕事

 発災後の仕事は情報管理がメインです。

 無理に火中に飛び込むような事はせず、出来る事と出来ない事を見極め、長期戦にも耐えられるよう地域のことを考えます。

 安否確認については、平時に積み上げてきたものが活きてきますので、平時の活動を振り返り、しっかりと履行していくように努めます。




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